東北地方の地質を調べると過去の情報を知ることができるので、東北地方がどのようにできたのかを知ることができます。
北上川西側の地層に比べて東側の北上山地の地層は、古い地層でできています。例をあげると、北上山地には、アンモナイトが繁栄を始めたデボン紀から絶滅した白亜紀まで、すべての地質時代のアンモナイトを見ることができます。また、南三陸町にはウタツサウルスという三畳紀に生息していた魚竜の化石が見られます。
北上山地のアンモナイト(撮影:菊池美紀)
ウタツギョリュウの化石
北上山地に見られる化石は、元々、現在の東北地方とは全く違った場所(赤道付近)で生息していた生物たちです。しかし、現在の場所で観察される理由はプレートの動きにあります。プレートは私たちの爪が伸びる程度の速度で、ゆっくりとではありますが確実に動いています。人間の寿命かつ人間の大きさでは、大地の動きを目で実感できることは難しいですが、地球スケールで3億年前から現代まで5千万年単位で追っていくと、地球上の大陸の姿は大きくダイナミックに動いていることがわかってきます。
今から約3億年前(石炭紀〜ペルム紀)、現在の地球上にある全ての大陸は一つにまとまって、パンゲアと呼ばれる超大陸を形成していました。
ここで、北上山地が当時どんな場所であったかについて、「みちのくはアンモナイトの宝庫」でも説明されています。北上山地に産出するペルム紀(約2億9800万年前〜2億5100万年)のアンモナイト化石について、外国の同じ年代の地層から産出するアンモナイト化石と比較すると、当時の熱帯地域に生息した種類が見られ、北極域に生息していた種類は見られません。そのことから、この当時の北上山地は熱帯域にあったことがわかっています。
さて、超大陸パンゲアは元々複数の大陸が、その当時はたまたま集合していたものであって、その後、各プレートが動くに従い、今から約2億年前(ジュラ紀)にはパンゲアは分裂を開始していきました。 パンゲアの北半分はローラシア大陸(現在のユーラシア、北アメリカ大陸)、南半分はゴンドワナ大陸(現在のアフリカ、南アメリカ、南極、オーストラリアの各大陸及びインド亜大陸)となりました。
北上山地や阿武隈山地は元々ゴンドワナ大陸の縁辺部にあり、それから長い時間をかけて現在の場所まで北上しました。大雑把にいうと、2億年くらいかけて、赤道から現代の北緯35度から40度くらいまで移動してきたのです。
2億年前から現在までの大陸移動
2億年前から現在までの大陸移動
今度は、北上川や阿武隈川の西側の地層がどのようにできたのか見てみましょう。
こちらの地層のほとんどは、北上山地や阿武隈山地と比べると非常に新しく、約2300万年前以降の新第三紀と呼ばれる時代に形成しています。 特に新第三紀に形成した東北地方の地層の特徴は、グリーンタフと呼ばれる、深海の火山でできた緑色の凝灰岩が多いことです。グリーンタフは、青森県の千畳敷や秋田の男鹿半島などで見られる緑や青色の岩石で、東北地方の日本海側で多くみられます。
グリーンタフでできた地層
(青森県西津軽郡深浦町)
これらの地層は元々、約2,000万年〜1500万年前に、深海の火山から噴出した火山灰や溶岩です。噴出した後、長い時間をかけて、火山で温められた熱水と呼ばれる水と海水で結晶が緑泥石など緑色の鉱物に変化したために緑色の岩石となりました。 東北地方のグリーンタフが形成した時期は、日本海ができた時期と重なっています。
2800万年くらい前は、日本海はまだ存在せず、現在の日本列島はユーラシア大陸の縁辺部にありました。そして、2200万年前〜1500万年前にユーラシア大陸と日本列島の間が離れていき、その間には日本海ができました。地盤がそれだけ移動するということは、地殻変動も激しい時代であり、海底の噴火活動も活発だったと考えられています。
グリーンタフの元となる凝灰岩の地層が形成したのはそんな時代です。深海で大規模な海底噴火が何度も発生してどんどん形成し、東北地方に多く見られる黒鉱もできていきました(「まっくろ黒鉱」参照)。
ちなみに、黒鉱を作る深海の熱水噴出の現場が世界で初めて観測されたのは2010年のことです。 統合国際深海掘削計画(IODP)の第331次研究航海で、沖縄トラフと呼ばれる沖縄県沖合の水深約880m〜1,130mの深海底の熱水鉱床と呼ばれる場所を地球深部探査船「ちきゅう」で掘削したところ、海底下の地層から黒鉱が見つかりました。それをきっかけに、黒鉱と呼ばれる重鉱物を多く含んだ鉱床が、どこでどのように形成するのかが科学的に解明されてきました。ここについては、第6回「深海で生まれる宝の山」で詳しく説明する予定です。
東北地方の地質に話を戻すと、グリーンタフを作る火山活動が終わった後は有機物(生物の死骸)を多く含む泥岩が堆積し、地層の一部が秋田や新潟などの油田になりました。その後、東北地方は沈降と隆起を繰り返し、今から、約300万年前には現在の東北地方はほぼ陸化していたと考えられています。