東北大学総合学術博物館

THE TOHOKU UNIVERSITY MUSEUM

深海地形探査の歴史

宇宙、深海、極域など、人類にとって未知の世界への探査は、科学技術の発展とともにあり続けてきました。そして、その成果のおかげで、それまで知ることもなかった私たちの住む地球の真の姿をこの目で見ることができるようになってきました。

地震や火山の原因だけでなく、日本をはじめとする陸地や大陸がどのようにしてできたのかが明らかになってきた背景には、深海探査技術の発展が重要な位置を占めます。ここでは、そのうちの代表例となる、海底地形図の発展について見てみましょう。

水深測定の始まり



深海底地形調査は深海底を調査する場合、スタートとも言える調査です。海底地形の理解なくして、地球の姿を知ることは不可能と言っても良いでしょう。

深海底の地形は、船が調査海域に出向き、その場所の緯度、経度、水深を計測します。計測点が増えれば地図上の1点の計測場所が連なって線となり、やがて面となります。海底地形を正確に把握するためには緯度、経度、水深すべての測定値の誤差を小さくすることが必要であり、計測方法や機器類の開発とともに、深海底地形の精度は今なお向上し続けています。

海底の深さを知るための調査は、はじめは沿岸部の航路確保のために行われてきました。深海における初めての水深調査は、16世紀に行われたマゼランによる世界一周航海と考えられています。そのころの調査方法は、綱の先につけた錘を着底させ、繰り出した綱の長さを水深に換算する方法でした。当時の測深用の綱の長さは180~370m程度でした。そうすると沖合にいくと綱が海底まで着底しませんが、マゼランはその地点を世界最深の位置と考えました。

深海底地形調査がさらに進められるようになったのは、19世紀です。アメリカで、モース(Morse)が電磁式電信機を1837年に特許申請し、モールス信号を用いた通信が一般的になり、ヨーロッパとアメリカで陸上通信網が次々に敷設されていきました。陸の通信網が海を超えるようになり、ヨーロッパとアメリカを結ぶ、大西洋を横断するケーブルを敷設するため、深海底の測深が活発に行われるようになりました。そして、1850年には海底ケーブルはドーバー海峡を越え、1866年には海底ケーブルは大西洋を横断するようになりました。

ちなみに、その当時の日本の状況は、1853年にペリーが浦賀に来航して日本に開国を迫り、日本は江戸時代から明治時代へ、大きく政治体制が変わった時代でした。一方で、世界中に海底ケーブルで繋がれた通信網は日本には届いていませんでした。そして、明治時代が始まり、日本政府が欧米から技術者や研究者を招聘し、国を挙げて世界との技術力との差に全力で追いつく時代でもありました。

大西洋横断ケーブルが設置された頃の世界の通信網

横須賀リサーチパーク無線展示室より引用

初めて、学術目的で深海底地形が地球規模で観測されたのは、1872年から1876年にかけてイギリスによって行われたチャレンジャー号航海です。この航海は19世紀の科学探検の金字塔とも言われ、現代につながる海洋学の基礎を作った航海と言われています。

この航海では大西洋、太平洋、インド洋を横断し、海底堆積物、海水温、海流、海水の成分、海洋生物、大洋に浮かぶ島々の植物、深海域の水深計測による深海底地形の調査結果が50巻の報告書としてまとめられています。この航海では、それまで知られていなかった非常に深い海底、現在のマリアナ海溝や千島海溝などの深海の存在が明らかになりました。また、大西洋の中央部には、今では大西洋中央海嶺と呼ばれる地形的な高まりが存在することも報告されています。

さて、ここまでの水深調査は綱に錘をつけた測深機によるものです。この方法は計測できる水深に限界が出てきます。もっと深い水深を計測する方法として、次に水中で音を発してから戻って来るまでの時間を計測する方法の開発が進んでいきました。

次のページでは、音波を用いた水深計測について見てみましょう。

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参考文献:
Historical Timeline, Ocean Exploration and Research, NOAA.

大島章一, 2000, 海底地形調査の歴史と現状, 地学雑誌, 109 (3), 474-482.

Bishop, T. et .al., 2003, Then and Now: The HMS Challenger Expedition and the “Mountains in the Sea” Expedition, Ocean Explorer, NOAA.

The Challenger Expedition, Dive and Discover, Wood Hole Oceanographic Institution.