東北大学総合学術博物館

THE TOHOKU UNIVERSITY MUSEUM

地形図のデジタル化と国際標準化

プレートテクトニクスの理解にあたり、地形図のデジタル化も大きな原動力になっている点も見逃せません。1977年に発表されたヒーゼンとサーブの海底地形図はハインリッヒベランという、非常に有名なオーストリアの地図画家によって手書きで作成されました。ちなみに、彼は1998年の長野オリンピックのスキー会場となった白馬の地図も作成しました。

かつては手書きの地図が、今では気がつけばパソコンやスマートフォンでデジタル化された地図を見る生活に変わっていることは多くの人々が経験していることでしょう。デジタル技術進化の過渡期に生きる私たちは、地形図の目覚ましい進歩を体験しながら日々を過ごしています。

地図のデジタル化はコンピュータの歴史とも深く関わっています。プログラム言語であるBasicが発表されたのは1964年で、1975年にはアルテア8800という、パーソナルコンピューター(PC)の普及のきっかけになるコンピュータが発売されます。コンピュータとプログラムの日進月歩とも言える発展により、1980年代には多くの人がパソコンを手に入れ自分でプログラムを作成するようになります。そして、1990年にWorld Wide Webが開始され、インターネットの普及が進むとともに、1991年にはカラー液晶ディスプレイを搭載したPCが販売され始め、カラーの地形図をパソコン画面で見ることができる環境が整備されていきました。現在、世界の研究者が利用している地形図を作成ソフトが開発されたのは、そのような時代です。

一方で、地図のデジタルデータに関する取り組みは、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)と呼ばれ、1960年代に北米を中心に始まります。日本では、1974年から試験的に都市圏を中心とした取り組みが始まりますが、1995年の阪神淡路大震災がきっかけとなって、全国的な地理情報システム整備が大きく進展します。

1999年(平成11年)に公表された国土地理院研究開発5カ年計画では、世界的なGISの普及期であることをうけて、日本国内のGIS実利用を推進するための方向性が策定されます。この計画策定後、2000年(平成12年)からは、それまで都市部のみにとどまっていた地形図のデジタル情報は日本全国規模に拡大され、2001年にはその整備がほぼ完了しました。2万5千分の1地形図は、2009年から電子国土基本図として整備されています。

GISの整備により、多くの人が大量の数値データを使って、より独自の地図開発をすることができるようになりました。緯度、経度、標高(水深)を3次元データとしてデジタル情報にしたものをDEM(Digital Elevation Model:デジタル標高モデル)といい、GISの一機能として数多く搭載されます。DEMデータを使用したとして、平面地図でありながら直感的に地形の起伏を理解することができる陰影起伏図、赤色立体地形図、デジタル標高地形図などが挙げられます。大量のデジタル情報を処理して様々な地形図が作成されることで、より詳細な地形判別が可能になりました。

南海トラフの赤色立体地形図
斜度を赤色にすることで地形の起伏が強調され、陸上の土砂が海底谷を乱泥流となって遠くまで運ばれていることがわかります。

参考文献:
千葉達朗・鈴木雄介, 2004, 赤色立体地図-新しい地形表現手法-,応用測量論文集,15,p1-89.

篠原茂明, 2002, GIS時代に対応した地形図, 国土地理院時報, no.98, p3-5.

国土地理院, 1999, 国土地理院研究開発5カ年計画