東北大学総合学術博物館

THE TOHOKU UNIVERSITY MUSEUM

モホール計画から深海掘削計画へ

ここで問題です。 モホール計画では、マントルまで掘削するのに、何故、陸上ではなく深海底から掘削したのでしょうか?

その答えは、地球表層の地殻の厚さが、場所によって大きく異なるためです。地殻の厚さは、大陸では数十km、海洋では数km程度で、海洋の地殻の方がずっと薄いのです。実は、ソビエト時代のロシアでは1970年代にコラ半島という場所で、地殻を深くまで掘削しています。この掘削孔は、これまで人類が掘削できた現在世界で最も深い孔で、約12kmの深さです。しかし、大陸部分の地殻は厚いので、マントル到達の深さの半分かそれ以下でした。深海底であれば場所によって地殻の厚さは異なりますが、5km程度の掘削でマントルまで到達します。

大陸地殻と海洋地殻の厚さの違い


大陸地殻を深く掘削することで、地熱の上昇速度など得られる科学的知見もありますが、マントル掘削を実現するには、海底掘削の方が近道であると言えるでしょう。

モホール計画に話を戻しましょう。深海底を掘削してマントルまで到達するプロジェクトは、1966年に途中で中止されてしまいます。原因としては、関係者間の方向性の違い、掘削を継続していってもマントルまではなかなか到達せず、一方で、掘削のための経費は上昇していったことが挙げられています。

現在の視点から見ると、深海底掘削は想像するよりもはるかに難しく、そのための問題点も、この時点はまだ明確になりきっていなかったということはあるのかもしれません。深海底を掘削するには、高い圧力、掘削深さによって大きく変わる温度、見えない深さで非常に硬い岩石を掘削することの難しさをはじめ、考え始めるときりがないくらいの課題を挙げることができます。

しかし、マントルへ行きつけなかったといって、この計画が失敗と言うのはふさわしくないでしょう。

この計画がもたらした財産は、それまで誰も手をつけることのなかった深海に直接接触し、海底下の地層をもたらし、それまで得ることのできなかった多くの科学データを得ることができたことです。

技術的な点では、水深の深い洋上で船を定点に留め置き、ドリルパイプによって海底と船を繋ぎ続ける自動定点保持システム(ダイナミックポジショニングシステム)、船の上下動の振動を吸収するバンブーサブと呼ばれるパイプ、そして、リエントリーと呼ばれる一度掘削パイプを引き上げ、再度同じ掘削孔にドリルパイプを落とし込む技術の開発などがそれにあたります。

モホール計画を実行することで、深海を掘削するための船、掘削装置、科学知識と分析機器、そしてそれらを活かすことのできる多くの研究者がそろったのです。

モホール計画が終了した1966年と同じ年、今度は深海底掘削計画(DSDP: Deep Sea Drilling Project)のプロジェクトが発足し、グローマーチャレンジャー号という掘削船を仕立て、1968年から実際の掘削調査研究を開始します。深海掘削計画第1回研究公開の序文には次のように書かれています。

モホール計画以前は、この地球で得られる試料は限られていた。しかし、1961年のモホール計画の成功により、石油産業で進展した掘削技術を用いることで、大水深・大深度まで掘削する技術が実現することが示された。


モホール計画があってこそ、その次である深海底掘削計画があったと言えるでしょう。
次のページでは、モホール計画が生み出した、深海掘削計画の発展についてみてみましょう。

参考文献:
Ault, A., 2015, Ask Smithsonian: What’s the Deepest Hole Ever Dug?

JAMSTEC地球深部探査センター、世界が手を組み、海底を掘る 地球を探る一大科学プロジェクト、IODP(2010)地球発見、第9号、p3-6