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図版 4

Chlamys sendaiensis Masuda, 1962

センダイニシキ

 



竜の口層の固有種のひとつ。絶滅種。
   
分類
  軟体動物門 二枚貝綱 翼形亜綱 ウグイスガイ目 イタヤガイ科
  Phylum Mollusca, Class Bivalvia, Subclass Pterimorphia, Order Pterioida, Family Pectinidae
   
時代
  新生代新第三紀鮮新世前期(約500万年前)
分布
  宮城県,岩手県,仙台付近では、完全な成体は、郷六でしか産出していない (化石産出)
生息深度と底質
  潮間帯から水深10mくらい,砂礫底,付着生(推定)
   

同定のポイント

Chlamys 属

ホタテ貝のなかまで、耳のかたちが明らかに非対称なもの。

放射肋の数が約25本で、ウロコ状の装飾と、分割の仕方が特徴的。ただし、成体でない標本では、殻の特徴が表現されきっていないので、判別がむずかしい。

 



原記載
 
Masuda, 1962 :
 
Tertiary Pectinidae of Japan
[ Science Reports of the Tohoku University, 2nd Series (Geology), Vol. 33, No. 2, p. 117-238 ]
 

増田考一郎 1962年:

 
日本の第三紀イタヤガイ科
[東北帝国大学理科報告 第二類(地質学)]
 
Chlamys sendaiensis n. sp.
   
Holotype 斎藤報恩会自然史博物館 Reg. No. 2208 ,産地:郷六
Paratype 宮城教育大学地質教室 Reg. No. 3942 ,産地:澱
 

 

(和訳)記載:殻の大きさと幅、膨らみ具合は中庸[Masuda のいう中庸の大きさとは、殻高が40-80mm,同じく中庸の膨らみ具合とは、殻深が殻高に対して1/10-1/5の場合と定義される]、耳の部分を除けば等辺形、いくぶん左右不等殻で、右殻は左殻よりも膨らみが弱い。殻には放射状の肋があり、殻頂角は約85°である。左殻には、約25本の細かな鱗片状になった放射肋があり、その肋間には、細かな鱗片状になった細いすじ[thread]が派生する。また同心状の成長線もみられる。放射肋は、肋間よりも幅が狭く、ふつうは、腹縁部にかけて、縦方向の浅いみぞによって、3つの、ほぼ均等な、細かな鱗片状になった小肋[riblet]に分割される。側部に近いところの放射肋は、ふつう、2つの小肋に分かれているか、または、分かれないままである。肋間には、細かな鱗片状になったすじが3本派生し、そのうち第1次派生のすじは、殻頂付近から現れ、腹縁部では分割された小肋とほぼ等しい強さとなっている。放射肋と第1次派生のすじとの間に見られる、細かな鱗片状になった第2次派生のすじは、殻の下の部分で現れる。殻の側部には、細かな鱗片状になった、細い放射状のすじが見られる。耳のサイズは中庸である[Masuda のいう中庸とは、咬合線の長さが殻高に対して1/3~1/2の長さであること]。前耳は、三角形に近い形で、後耳よりずっと大きく、はっきりとした足糸彎入を伴い、細かな鱗片状になった多数の放射状のすじと、その間に派生する細かな鱗片状になったすじ、および同心状の線を持っている。後耳の模様は、前耳と同様である。咬合面は、ややくっきりしたカーディナル・クルース[脚部,咬合線の下にある支えの部分]と、やや浅くて広い弾帯受、および右殻の側部の隆起に対応した浅いソケットを備えている。右殻は、いくぶん背の高い放射肋をもつことを除き、左殻とほぼ同様の模様である。前耳は、後耳よりもずっと大きく、深くて狭い足糸ノッチ[切れ込み]と、やや広い足糸エリアとを備えていて、表面の模様は左殻と同様である。咬合面には、クテノリウム[櫛(くし)のようなぎざぎざした部分]がはっきりとみられるが、詳細な特徴は不明である。殻の内面は、ゆるやかなひだ状になっていて、縁辺部は細かな鋸歯状となっている。

寸法(単位はmm):* 印は完模式標本

右殻
右殻
右殻
左殻*
左殻
左殻
左殻
殻高
63
43.5
29
61
63
36
26
殻長
57
37
27
56
57
31
22
咬合線長
-
約 20
約 15
約 36
-
19
-
殻深
約 10
8
約 5.5
14.5
約 13
6
3.5

比較および類似点:Chlamys nipponensis Kuroda は本種に結び付けられるが、本種に比べて、殻が大きく、放射肋の数が多く、肋の背が高く、鱗片が顕著である点で区別される。その放射肋は、特に左殻において、強さが均等でない。Chlamys halimensis (Makiyama) は、放射肋の数が多く、鱗片状の程度が低いことにより、また、その放射肋が、右殻では2つに分割されるか、分割されないままであり、左殻ではほとんど分割しないということにより、本種と区別し得る。Chlamys miyatokoensis (Nomura and Hatai) は本種と似ているが、やや小さな殻と、より背の高い放射肋、いくぶんはっきりしないクテノリウム、左殻でのあまりはっきりしない網目模様によって区別される。

 上記の記載は、いくつかのやや不完全な標本にもとづいている。

模式地、地層および時代:宮城県仙台市の西端、広瀬川右岸沿いの、郷六の崖(北緯38°16′,東経140°19′)。竜の口層。鮮新世前期。

分布:宮城県の竜の口層,山田層。岩手県の Motohata 層。どれも時代は鮮新世前期。

産出状況:竜の口層の粗粒ないし極粗粒砂岩中に普通に産する。山田層の極細粒砂岩中にまれに産する。

end



他の記載
Masuda and Sato, 1979 :
 
A Note on Chlamys sendaiensis Masuda
[ Saito Ho-on Kai Research Bulletin, No. 47, p. 7-10 ]
 

増田考一郎,佐藤善男 1979年:

 
Chlamys sendaiensis Masuda についてのノート
[齋藤報恩会研究紀要]
 
Chlamys sendaiensis Masuda
 

 

(和訳)所見:原記載は以下のとおり。<原記載の部分省略>

 [模式地の郷六で]新たに採集された右殻を調べた結果、著者は、以下の特徴を原記載に付け加えるべきだと考える。

 右殻は中程度に膨らんでいて、約25本の、細かな鱗片状をなした、いくらか背の高い放射肋と、放射肋の間に派生する、細かな鱗片状をなす、細いすじと、同心状の細い成長線とを備える。放射肋は、腹縁部にかけて、前方に曲がっていく傾向があり、また、殻の上部では肋間とほぼ均等であるが、腹縁部にかけて、肋間よりも少し幅が広くなる傾向がある。上部中央の放射肋は、ふつう、ひとつの浅い縦みぞによって、細かな鱗片状をなした2本の均等でない小肋に分かれ、まれには、3本の小肋に分かれる。殻の側部付近の放射肋は、ふつう、分割されないままである。肋間に派生するすじは、ふつう、殻の上部で現れ、腹縁にかけてしだいにはっきりしてくる傾向がある。放射肋と第1次派生のすじとの間の、細かな鱗片状をなす第2次派生のすじが、殻の下部に現れる時がある。前耳は後耳よりもずっと大きくて長く、うろこ模様のついた放射状のくっきりしたすじがいくつかと、同心状の線とが見られ、また、はっきり目立つ足糸ノッチと広い足糸エリアとを備えている。後耳は、後部で約100°の角度で切断状となり、細かな鱗片状をなす放射状の細いすじがいくつかと、そのすじよりに比べてあまりはっきりしない、細かな鱗片状をなす、派生的な細いすじと、同心状の線とが見られる。咬合部は、やや明瞭なカーディナル・クルースと、明瞭なクテノリウムと、明瞭な側部隆起のある広くて浅い弾帯受とが見られる。内面は、外面の彫刻に対応して、少し折り目がついていて、また、腹縁部が特徴的に鋸歯状に刻まれている。

 1973年に野田が、宮城県牡鹿半島の鮮新統御番所山層から、Chlamys imanishii Masuda and Sawada の不完全な標本を一つ図示している。しかしながら、東北大学地質学古生物学教室に保管されているその標本(IGPS coll. cat. no. 92917)を再調査したところ、著者は、野田のいう imanishii は、Chlamys sendaiensis に同定されるべきと考える。

 栃木県の中新統 Kanomatazawa 層から記載されて、日本の関東地方や東北地方の非常に多くの産地から知られている、Chlamys kaneharai (Yokoyama, 1926) は、全般的な特徴が本種と似ている。しかし、C. kaneharai は、うろこ状放射肋の数が少なく、放射肋が非常に際立っていて、その断面が正方形に近く、2本の浅い縦方向の溝により3つのほぼ均等な小肋に分割されており、内面の腹縁が特徴的に刻まれることで、本種と区別し得る。神奈川県の中新統逗子層より産する Chlamys miurensis (Yokoyama, 1926) も本種と似ているが、放射肋の背が低く、肋の表面が滑らかで、肋の上面が平らで丸みを帯びていて[?]、肋が肋間よりも幅広いことから、sendaiensis とは区別できる。青森県の鮮新統大釈迦層から最初に記載されて、日本海沿岸や北海道南西部に分布する鮮新統の地層の多くの産地から知られている Chlamys daishakaensis Masuda and Sawada (1961) は、殻が大きく、放射肋が浮き立っていて、その放射肋の両はじに、細かく鱗片状になった、か弱くて細い放射状のすじを伴っており、また、耳が小さくて狭い点で、本種とは異なっている。

寸法(単位mm):右殻で、高さ 102,長さ 90,咬板の長さ約 52

模式地と地層名、時代:宮城県仙台市西端部の広瀬川右岸沿い、郷六の崖。竜の口層。鮮新世前期。

完模式標本:斎藤報恩会自然史博物館 Reg. no. 2208

分布:宮城県の竜の口層、山田層、御番所山層。岩手県の Motohata 層。どれもみな時代は鮮新世。

end