東北大学総合学術博物館のすべて 企画展「脳のかたち 心のちず」

はじめにはじめに

東北大学総合学術博物館のすべて Ⅵ
「脳のかたち 心のちず」
-東北大学・脳の研究・心の研究

脳の話は面白い。
私たちは脳で世界をとらえているが、ふだんは、世界のほうが「そうなっている」と思っている。
しかし、そう「思っている」のは、あなたの脳である。
人間のなすことすべては、脳のすることである。
脳の働きの一部でしかない意識は、自分は脳の働きなんかじゃない、心だとがんばる。
心はもっと高級で、不思議なものだといいたいらしい。
             養老孟司「脳と心の地形図」監修のことばより

 脳の話が面白いのは、それが、わたしたちの心の話だからです。脳と心の関係は、ヒポクラテスの時代から現代まで、多くの人の心を魅了したテーマです。ところが、長いあいだ、脳と心が同じテーマであったわけではありません。なぜなら、脳が活動しているあいだ、心はそこにありますが、生きている脳をみる方法はありませんでした。新しいテクノロジーにより、生きた脳を覗きみる脳機能マッピングと呼ばれる新しい研究領域が拓かれました。この研究領域に誰もが魅了されるのは、この領域が心の謎を解く鍵になると思われているからです。

 この企画展前半では脳研究の歴史を振り返ります。「解剖の時代」では、江戸期の文献に日本における脳研究のはじまりを探ります。東北大学附属図書館の蔵書より、とくに珍しい資料を展示します。つづく「顕微鏡の時代」では、ここ仙台に国際水準の神経解剖学研究を生み出そうとした布施現之助教授の業績とその学問的な遺産を紹介します。布施の目指した神経解剖学とは、当時、最も注目を集める最先端の研究分野でした。布施がヨーロッパに留学する前年、1906年のノーベル医学賞はふたりの神経解剖学者に贈られています。それだけに、この分野の進歩はめざましく、国家の威信をかけた厳しい研究競争の舞台となっていました。展示は、新しく創立される大学で最新の科学を主宰しようとする意気込み溢れる若い研究者の言葉から始まります。

 後半は、一転、現在の脳研究最前線に目を向けます。「脳のかたち」では、青葉脳画像データベースにスポットをあてます。現代日本は、かつてない高ストレス社会といわれ、幼児から老年までのすべての年代で「心の問題」が話題になっています。ここでは脳の「かたち」から心の問題に迫る研究を紹介します。「脳のうごき」では、脳機能マッピングの拓く可能性に注目し、脳の「動き」と心の関係を紹介します。この新しい神経科学は、さまざまな領域を巻き込みながら驚くべき速さで発展拡大を続けています。まさに「人間のなすことすべて」を研究対象としているといえます。展示では、その対象の多様性と応用の可能性のいくつかの例を紹介します。

 東北大学総合学術博物館 企画展制作委員会

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