東北大学総合学術博物館 ミニ標本案内 vol.4 三葉虫 アカドパラドキシデス

弱肉強食時代のはじまり ――― 「三葉虫 アカドパラドキシデス」 (Acadoparadoxides sp.)

カンブリア紀(5億4200万年前~4億8800万年前)
モロッコ

どこが葉っぱ?
三葉虫「どこが葉っぱ?」 皆さんも三葉虫(さんようちゅう)の名前はどこかで耳にしたことがあるでしょう。はじめに、不思議なこの名前の由来を、右の図でご紹介します。
  胴体部分が、中央の軸(軸部 axial lobe)、その左右の房状の部分(肋部 pleural lobes)と、3つに分かれています。このように、体が「三つの(tri)」、「葉または房(lobe)」 からなる「石(ite)」であるため、三葉虫(trilobite)という名前がつけられました。身体を覆うこれらの硬い殻に守られて、この下には何本もの脚がダンゴムシのように生えています。
脅威の10,000種
 三葉虫類は、カンブリア紀(約5億4200万年前)からペルム紀末(約2億5100万年前)まで、世界中の海で広く繁栄しました。その種類は実に約1,500属10,000種くらいにもなるのではないかと考えられています(Harrington, 1959)。大きなものは70cmほどにもなり、逆に、小さいものでは成体でも5mm程度という種も見つかっています(Harrington, 1959)。主に海底を這い回って泥を食べて栄養分をこし取っていたといわれていますが、中には泳ぐことができた種もいたようです(Fortey, 1985)。さらには、足で泥を巻きあげて細かい栄養物をエラでこし取ったとする説もあります(Seilacher, 1997)。海底を這い回るのには、あの何本もの脚は最適だったことでしょうね。
 三葉虫が海底を這い回った跡は、クルジアナという生痕化石(生物の生活様式や行動の痕跡を示す化石)として発見されています。中には、急に曲がることができないため、三葉虫が何度もグルグルと旋回した状態と思われるようなクルジアナも見つかっています(Seilacher,1997)。 このページのTOPへ
逃げろ!危うし三葉虫
飛び出した目玉 「アサフス・コヴァレフスキイ」 東北大学総合学術博物館には、様々なかたちの三葉虫が展示されていますが、その中でも、目玉がかたつむりのように飛び出したアサフス(写真右)が、文字通りひときわ目を引きます。 上の標本写真でも、盛りあがった目を見つけられますか? そこが目だとわかると、ぐっと愛嬌のある顔になってきましたね。

 三葉虫は、最初に視力をもった動物のひとつと考えられています。多くの種では、トンボの目のような複眼がみられますので、ものの形が認識できるほどに視力が発達していたことでしょう。そして、硬い殻。三葉虫が出現したカンブリア紀以前にいた生物としては、エディアカラ生物群が知られていますが、それらの大部分は硬い殻などもたず、やわらかいフニャフニャの姿で生きていたと考えられています。
とんぼのような複眼 「ファコプス・ドロトプス・メガロマニクス」 なぜ、三葉虫は、視力、硬い殻が発達したのでしょうか。それは、この時代に三葉虫を餌とする捕食者が現れたことと深い関係がありそうです。視力をもって敵をすばやく察知して逃げ、硬い殻で身を守ることで、三葉虫は古生代末期まで繁栄することができたのでしょう。
食べるもの、食べられるもの
 カンブリア紀初期は、「生物進化のビックバン」とよばれるほど様々な形をした生物が爆発的に出現し、それらの中で『進化の実験』 がくり広げられた時代として知られています。その中には、今の時代にはつながらず、絶滅してしまった生物が数多く存在しました。肉食動物の出現も、その『進化の実験』のひとつの要素であったと考えることができます。より速く逃げる、あるいは捕らえる、より強力に攻撃する、あるいは身を守る、そのような生き残り「戦略」の中で、様々な進化の実験がなされたことでしょう。三葉虫の硬い殻や、背中のトゲなどは、強力な敵(アノマロカリスやウミサソリなど)からの攻撃を防ぐのに有利だったと考えられます。三葉虫の背側の殻はカルサイトでできていたと考えられ、よく化石として残るのですが、中には、殻の一部が他の動物に食べられた跡のように楕円状に欠けている化石や、ダンゴムシのように丸まって身を守っているかのような状態の化石が発見されています。これらは、カンブリア紀の海底で、壮絶な食うか食われるかのバトルが始まっていたことを想像させます。
三葉虫は絶滅したか?
 古生代には多くの種が出現し、様々な環境に適応した三葉虫でしたが、ペルム紀末期に起こった生物史上最大の大絶滅(一説では、海生生物の 96%が絶滅したといわれる)を境に、この世から姿を消していきます。
 でも、三葉虫によく似た生物を、テレビなどで見かけたことはありませんか?あの「生きた化石」とよばれるカブトガニです。現在のカブトガニには、「三葉虫型幼生trilobite larva」とよばれる発生段階もあり、カブトガニは、三葉虫と比較的に近縁な生物だと考えられています。現在のカブトガニは、約2億年前(ジュラ紀)のカブトガニ化石と、形態的な特徴はほとんど変わっていません。カブトガニのように、三葉虫を連想させるような生き物が、2億年間以上も姿を大きく変えずに存在していることは、まったく驚かされるばかりです。その間には、超大陸の衝突と分裂や、生物の大量絶滅事変が何度も繰り返されています。それにもかかわらず、古生代の生き物によく似た形の生き物が現在も生きているということは、何か神秘的でさえあります。
 ひょっとしたら、絶滅したとされていたシーラカンスが後の時代に発見されたように、どこかの深海か海底洞窟のような場所で「三葉虫発見!」・・・なんていうこともあるかもしれませんね。

展示室内の標本の位置

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