第8回ミニ展示 「北上山地のアンモナイト」

マイクロカリス科の新属・新種 Kitakamicaris utatsuensis
のホロタイプ標本

日本初の嚢頭類(のうとうるい)化石を南三陸町で発見!

東北大学総合学術博物館と宮城県南三陸町教育委員会との共同調査
東北大学総合学術博物館は、南三陸町教育委員会と共同で、南三陸町歌津の館崎北方に分布する大沢層に含まれる化石について、ここ数年調査を続けてきましたが、その結果、いくつかの重要な化石群を見出しました。今回報告する嚢頭類(のうとうるい:Thylacocephala)化石はそのひとつです。
嚢頭類化石はこれまでわが国からは知られていません。館崎の大沢層から3属3種(1新属・新種および1新種をふくむ)の嚢頭類化石が発見されました。

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まとまって産する嚢頭類の化石

南三陸地域の地層
南三陸地域に分布する下部-中部三畳系稲井層群の大沢層は約2億5千万年前に浅い海でたい積した地層で、世界最古の魚竜化石ウタツギョリュウ(Utatsusaurus hataii)や多数のアンモノイド化石を産することで著名です。下位の平磯層、上位の風越層・伊里前層とともに、わが国における下部-中部三畳系の研究を行う上で重要な標識的な地層として古くから研究されてきました。

ウタツギョリュウが最初に発見された館崎の露頭は国指定の天然記念物となっています。

大沢層の豊富なアンモノイド(アンモナイト類)化石群は、当時の赤道周辺に生息した、コルンビテス動物群と呼ばれる、熱帯性の群集で、当時の北上山地(南部北上古陸)が赤道域にあった(のちに大陸移動で北上した)ことを物語っています。

嚢頭類(のうとうるい:Thylacocephala)とは?
嚢頭類は、前期シルル紀(カンブリア紀という説もある)から後期白亜紀まで生息した、節足動物に属する絶滅動物です。多くの研究者は甲殻類(ミジンコ、エビ、カニ、フジツボなど)の一グループをなすと考えていますが、甲殻類の他のグループ、例えばカシラエビ綱、顎脚綱、軟甲綱(エビ綱)との関係については諸説があり、謎の多い、研究途上の生物グループです。

Thylacocephala(嚢頭類)は、ギリシャ語のthylakos(背嚢、袋)とcephalon(頭)の合成語です。嚢頭類は、眼や脚をのぞく、体全体を包む甲皮(carapace)が特徴で、化石はおもにこの甲皮だけからなりますが、眼や脚、きわめてまれですが体を構成する体節やえらなどが残された化石も見つかっています。甲皮の前縁には大きな複眼があり、腹部の前より部分から大きな脚(捕脚?)が出ています。

ヨーロッパの各地域、レバノン、マダガスカル、中国、オーストラリア、アメリカ合衆国およびメキシコなど、多くの地域から産出が報告されていますが、これまで知られているものは20数属に限られ、棲息期間の長さや棲息地域の広さに比して化石としては産出記録が少ないグループです。

嚢頭類は一般的には小さく、殻のサイズは数cm程度ですが、最大のものは20cmに達します。

日本で初めての発見
今回の大沢層からの嚢頭類化石は、わが国からの初産出報告であり、また、アジア東部からは南中国についで2例目、前期三畳紀の地層からはマダガスカルについで2番目の産出記録です。嚢頭類の進化や古生物地理に関する新たなデータを提供する、重要な発見と考えられます。

3種類の嚢頭類化石を確認
館崎北方の大沢層から産する嚢頭類には3種類が確認されていて、それぞれ異なった属に属しています。

1つはマイクロカリス科の新属・新種(Kitakamicaris utatsuensis)で、これまで150個体以上が採集されています。甲皮の長さは20mmから35mmで、前縁上部に強い吻状突起(rostrum)があり、甲皮の表面には縦方向の細かな肋(ろく)が多数発達しています。似たものがスペインやイタリア、スロベニアなどの三畳紀中期~後期の地層から知られていますが、これらの前縁から腹部にいたる角が120-130度であるのに対して、歌津産のものはほぼ90度で、明瞭に違います。
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マイクロカリス科の新属・新種(Kitakamicaris utatsuensis)のホロタイプ標本

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Kitakamicaris utatsuensis ホロタイプ標本のスケッチ

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Kitakamicaris utatsuensis の想像復元図

もうひとつ、10個体ほど採集されたものは、上記のものより一回り大きい標本で、すそ野が広い吻状突起と甲皮表面が平滑であり、肋がないことが特徴です。マダガスカルの前期三畳紀の地層から知られている、アンキトカゾカリス・アキューティロストリスに似ていますが、吻状突起の形態や後縁部の幅が異なっていて、アンキトカゾカリスの新種(Ankitokazocaris bandoi)です。

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Ankitokazocaris bandoi (新種)

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Ankitokazocaris bandoi (上標本)のスケッチ

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Ankitokazocaris bandoi の想像復元図

3種類目は2個体しか産出していませんが、 吻状突起にくわえて、前縁部と腹部の間の角が突出する標本です。同じくマダガスカルの前期三畳紀のオステノカリス・アンバトロコベンシスに似ていますが、後縁部の幅などが違います。おそらくは新種であろうと考えられますが、標本数が少なく、オステノカリスの一種としておきます。

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オステノカリスの一種(Ostenocaris sp.)

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オステノカリスの一種、上標本のスケッチ

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オステノカリスのの想像復元図


学術論文にて公表
以上の内容は2015年10月1日発行のPaleontological Research誌の下記の論文において公表されました
Ehiro, M., Sasaki, O., Kano, H., Nemoto, J. and Kato, H., 2015, Thylacocephala (Arthropoda) from the Lower Triassic in the South Kitakami Belt, Northeast Japan. Paleontological Research, vol. 19, no. 4, p. 269-282 (2015/10/1)
[永広昌之・佐々木 理・鹿納晴尚・根本 潤・加藤久佳,2015, 南部北上帯の下部三畳系産嚢頭類(節足動物)化石.Paleontological Research, vol. 19, no. 4, p. 269-282 ]

展示公開
今回の調査で発見された嚢頭類の実物化石のいくつかを、東北大学総合学術博物館(理学部自然史標本館)および南三陸町歌津コミュニティー図書館「魚竜」にて2015年9月25日より展示しています。

 

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