スミソニアンスタッフへのインタビュー

スミソニアン自然史博物館の視察 2004年9月

 東北大学は、「市民に開かれた大学」のシンボルとして川内記念講堂を総合学術博物館へ改修する方針を決めました。この博物館では、東北帝国大学から百年間にわたり収集・保管されてきた学術資料標本を展示公開することが計画されています。

 2002年6月、市民有志と博物館スタッフは、「市民に開かれた大学博物館」像を求めてハーバード大学博物館を訪問しました。その訪問をきっかけとして、9月にスミソニアン自然史博物館学芸員の知念淳子さんによる「スミソニアンの展示・教育の取り組み」と題した講演会が実現しました。これらをさらに発展させ、スミソニアンにおける展示・教育モデルを確かめることを目的として今回の視察が企画されました。

 この旅には、カメイ社会教育振興財団の援助を受けて博物館スタッフ2名と大学地域連携機構スタッフ1名の3名が参加し、2004年9月18日から26日までの9日間にわたり、スミソニアン自然史博物館公開事業部門を中心に14名の職員や研究者と意見交換してきました。知念さんのスケジュールは、日によっては午前に1部門、短い昼食をはさんで午後に2部門を訪れるという厳しいものでしたが、スミソニアン・スタッフのもつ展示や教育のイメージに触れることができました。その一端をご紹介します。

「博物館展示」の多様化

 スミソニアン自然史博物館の展示の中心は、本物のすばらしい標本をふんだんに使った常設展示です。それらをさらに魅力的にしているのが、しっかりとした展示構成とすぐれたデザイン、平明で分かりやすい解説です。その一方では、スミソニアンでも標本によらない展示へのチャレンジがはじまっています。「環境変動」をテーマとした「フォース・オブ・チェンジ」展では、映像や画像など、巧みにデザインされたコンテンツが展示の中心となっています。さらに、インターネット技術を使ったスミソニアン版デジタルミュージアム「ナチュラル・パートナー」や最新の映像技術を使った「IMAX3-D」シアターのように新しいメディアを使ったコンテンツも増え、将来は、ますます展示の標本離れが進む傾向にあるそうです これら「イベント型展示」の対極に位置するのがナチュラリスト・センターでした。ナチュラリスト・センターでは、地域の小中高校生を対象として標本のスケッチや液浸標本の解剖といった標本本来の使い方による理科教育が行われています。このセンターにはデザインされた展示や解説書はありません。それでも、センターを運営するリチャードさんによると、「子供たちは標本にふれることで考えるコツを学ぶ」そうです。彼の「教えないことがコツ」という言葉が強く印象に残りました。

「教師のための手引き」

スミソニアン自然史博物館では「家族のための手引き」、「教師のための手引き」といった「教育ガイド」が充実しています。これは博物館が学校教師や親といった子供たちを引率してスミソニアンを訪れる人たちのサポートを重視するようになった結果だそうです。スミソニアンが準備する「手引き」には、いくつかの種類があります。さまざまな展示の中から授業に活用できるものを探すための展示ガイド、個々の展示には、その展示を教材として活用するために重要なキーワード、教材として関連する科目や使用を推奨する学年などの教師に有用な情報が盛り込まれた「展示手引き」、来館前と来館後にクラスで学ぶことを薦める内容が盛り込まれた「授業ガイド」などがあります。

「スミソニアンの展示・教育モデル」

 ナチュラリスト・センターの教育スタイルは、優秀なインストラクタ-は工夫した展示を不要とする例に思え、展示そのものの必要性を問いかけてきます。一方、じょうずに構成デザインされた展示コンテンツ、例えば「IMAX3-D」シアターは教育スタッフの必要性さえ考えさせるものでした。  スミソニアン自然史博物館に入るとすぐに大きなホールにでます。ここに立って眺めていると、この博物館を訪れる親子連れが多いことに気がつきます。この博物館の展示室は、親が子供に教える声や子供の声で、意外なほどにぎやかです。スミソニアンの「手引き」が展示解説書ではなく、展示を使って教える人を助けるように作られていることは、スミソニアンが考える教育の原風景がこのような親子の姿であることを示唆するのかもしれません。

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