第2部 内部直下型地震と活断層のすがた
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・古い断層が動いた!


宮城県北部地震

 2003年7月26日,宮城県北部を震源とするマグニチュード5.6, 6.4, 5.5の内陸直下型地震がたて続けに発生しました。河南町・矢本町などは最大震度6強の烈震にみまわれ,負傷者647名,住家被害6,413棟におよぶ被害がでました。
  東北大学では,急遽,震源周辺に14ヵ所の観測点を設置し,余震活動の観測を行いました。図は,震源のほぼ直上にある矢本町大塩小学校に設置した地震計がとらえた余震の波形ですが,驚くほどたくさんの余震が発生しており,中には本震と同じくらい,大きなものも混じっています。
  当初,宮城県北部地震は震源付近に知られていた旭山とう曲構造に伴う断層が活動したと考えられましたが,余震分布はそれとは別の断層の活動を示していました。

宮城県北部地震余震発生の様子と地震波形

▼余震発生の様子と地震波形

地震発生2日後の28日午後6時から24時間の間に発生した地震波形を示しており,横軸が10分間に相当します。黒いかたまりの一つ一つが一回の地震を示しており,非常に多くの地震が発生していることがわかります。

余震発生の空間的分布 

余震の震央分布を平面的に示しています。図中の緑や青の点は地表から深い場所での余震発生を示し、黄色やオレンジの点はより浅部での余震発生を示しています。余震が西~北西側に傾斜した面に沿って発生していることがわかります。

余震発生の空間的分布

宮城県北部地震で見つかった新しい活断層 -須江(すえ)断層の発見

地下構造を調べるために人工地震を使った探査が行われました。その結果,地表付近から深さ2kmに延びる断層が発見され,須江断層と名前がつけられました。須江断層付近の地質調査からは,この断層は約2000万年前より古い時代に活動した正断層と考えられます。須江断層の位置と余震分布を詳しく調べると,宮城県北部地震は須江断層の延長,地下深くで発生したこと,さらに須江断層は,現在では断層西側地域がせり上がる逆断層として活動したことがわかりました。

▼余震分布と震源断層の推定
余震分布と震源断層の推定
震源域の余震分布は,須江丘陵から西側に傾斜した面上に配列しています。
[パネル資料提供:東京大学地震研究所地震予知研究推進センター]
▼地下構造の推定地下構造の推定
層準Aは,鮮新統の亀岡層および竜の口層に相当する地層による反射面です。また,層準Bは,志田層群の基底と松島湾層群最上部の大塚層との境界と考えられます。層準Cの下位には佳景山層が分布すると思われます。層準Dは,先第三系上面の反射面で,須江丘陵の東端で消滅しています。
[パネル資料提供:東京大学地震研究所地震予知研究推進センター]

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コラム 震源域周辺の地質概説

 震源域周辺には,中新統の松島湾層群,それに不整合に重なる志田層群が分布しています。須江丘陵に分布する佳景山(かけやま)れき岩部層は松島湾層群に対比されます。一方、旭山丘陵に分布するれき岩層は,これまで佳景山れき岩部層と同じ地層と考えられてきました。しかし,最近,その堆積年代が約1500万年前となり,志田層群下部に対比されることが明らかとなりました。つまり,旭山丘陵に分布するれき層と須江丘陵に分布するれき層は不整合を挟んで上下関係にある時代の違う地層となり,須江丘陵に分布するこれまでの佳景山れき岩部層は佳景山層(新称)とされました。

震源域周辺の地質
[パネル資料提供:東京大学地震研究所地震予知研究推進センター]

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活断層がいっぱい 


仙台市街地の地下に伸びる大活断層
 

  長町駅から仙台駅までは地下鉄で数分の近さですが,この2つの駅がある場所は地震被害に影響する地盤の硬さがずいぶんと違っています。この違いは,2つの駅の間を利府町から村田町まで約35kmにわたって延びる長町-利府線,坪沼断層,大年寺山断層からなる長町-利府活断層帯が通っているためなのです。

 この活断層帯に沿って活断層によって作られた特徴的な地形が認められます。太白区では旧国道286号線に沿って三神峰,大年寺山など小山や丘が並んでいますが,この並びの東側には低く平坦な市街地が広がっています。また,榴ヶ岡の東側は高台から仙石線原町駅へ降りる急な坂道になっています。さらに,市街地でも活断層帯に沿って東に下る緩やかな斜面や坂道になっています。これらの地形は逆断層によって西側の地面がせり上がったためにできた断層変位地形です。長町-利府線は,最近では約40万年前から活動した逆断層で,この断層の西側は千年で60cm~1m程度上昇していると考えられています。

活断層のすがた 地下構造の推定

  市街地の地下を調べるために人工地震による探査が行われ,深さ1kmまでの地下構造が明らかになりました。その結果は,これまで長町-利府線は西側の地面がせり上がる逆断層と考えられていたのですが,実際には明瞭な断層は認められず,東側に傾斜した「とう曲帯」として観察されました。一方,大年寺山断層は断層の東側がせり上がる逆断層として認められました。

反射法地震探査による長町-利府断層の地下構造
 この図は、仙台市青葉区大手町の大橋付近を起点として、五橋通りを経て仙台駅南側のガードをくぐりぬけ、仙台市ガス局ショールームの敷地で屈曲して80m程南へ移ってから県道(荒浜-原町線)に沿って宮城野区大和町の卸売団地付近までの範囲を調査測線として探査した断面図です。
  この図で連続性がよく断面図全体に追跡出来るのは仙台層群基底の反射面です。その下位の綱木層最上部も一部不明瞭ながら全体的に追跡でき、東に向かってやや薄くなります。最も深部にある反射面は先第三紀の地層上面からのものと推定され、西に向かってその深度を増しています。

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コラム 活断層の露頭 -坪沼断層のスケッチと写真-

 坪沼断層は長町-利府断層のほぼ南西延長部に位置し、北東-南西方向で北西上がりの活断層であり,長さは約5kmと推定されます。南方に向かい次第に向きを変え、南端では東西方向になって高館丘陵内で消滅します。 

 掘削によるトレンチ調査の結果,トレンチ内には断層が東側法面と西側法面に出現しました。断層面の走向・傾斜はN42゚~58゚E54゚~62゚NWであり,北西側上がりの逆断層です。トレンチ内では断層を境として基盤岩である高舘層(上盤)と第四系の未固結堆積物が接しており,断層上部は砂・礫層および腐植質シルト層に覆われています。

 図と写真は、坪沼第二トレンチ東側の法面をしめしています。断層面は波曲していますが,一部で鏡肌を呈するセン断面が認められ,その走向・傾斜はN46゚E82゚NWです。断層粘土は法面下部で厚く,厚さ5~8cmです。

 法面の左下隅には,新第三系中新統の高舘層が分布しています。高舘層は黄灰~黄褐色を呈する火山礫凝灰岩からなり,全体に風化して脆いが,岩盤組織は保存されています。

坪沼断層スケッチ
坪沼第二トレンチ
▼坪沼第二トレンチ

東側法面(のりめん) 断層面近景
断層面は波曲する。断層粘土は法面下部で厚さ10cm

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・第2部のむすび


 1998年9月15日に青葉区愛子の地下10数kmでマグニチュード5.0の地震が発生しました。この地震は,地下深くまで伸びている長町-利府線で発生したと考えられます。この地震の発生によって,長町-利府活断層帯が活動期に入った可能性があると考える研究者もいます。

  宮城県北部地震を起こした須江断層と長町-利府活断層帯を比較すると,宮城県北部地震と同じような地震が長町-利府活断層帯で起こる可能性は低くはないと考えられます。その場合,市街地から愛子までの広い範囲で震度6程度の地震が起こり,その余震がかなりの期間続くことになり,相当の被害が生じると思われます。

  余震観測や地震探査によって、内陸直下型地震と活断層とが密接に関係することが明らかとなってきました。活断層の特徴や過去の活動履歴をさらに分析することによって,内陸直下型地震の発生を予測する手がかりが得られることが大いに期待されています。

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