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図版 2

Anadara tatunokutiensis (Nomura et Hatai, 1936)

タツノクチサルボウガイ

 



竜の口層の貝化石を代表する種のひとつ。絶滅種。
   
分類
  軟体動物門 二枚貝綱 翼形亜綱 フネガイ目 フネガイ科
  Phylum Mollusca, Class Bivalvia, Subclass Pterimorphia, Order Arcoida, Family Arcidae
   
時代
  新生代新第三紀鮮新世前期(約500万年前)
分布
  宮城県,岩手県 (化石産出)
生息深度と底質
  内湾の潮間帯下から水深50mくらいまでの砂泥底,内生(推定)
   

同定のポイント

Anadara 属

箱型のかたち。太くて角張った放射肋。一列に並んだ細かい多数の歯。殻頂の下に広く平らな靱帯面があり、やま型ないし波型の溝が刻まれている。

放射肋数は28~30本。肋上にある溝が、中央の太い1本と、その両側の細い2本の、計3本みられるタイプ。

弾帯面の大きさや、溝の模様は、定まっていなくて、いくつかのパターンがある。



原記載
Nomura and Hatai, 1936 :
 
On Some Species of the Genus Arca from the Neogene of Northeast Honsyu, Japan
[ Japanese Journal of Geology and Geography, Vol. 13, Nos. 1-2, p. 63-70 ]
 

野村七平、畑井小虎,1936年:

 
東北日本の新生代から産する Arca 属数種について
[地質学地理学雑誌]
 
Arca tatunokutiensis sp. nov.
 
Holotype 斎藤報恩会自然史博物館 Reg. No. 2179 ,産地:郷六
Paratype 斎藤報恩会自然史博物館 Reg. No. 4016 ,産地:郷六
 

 

(和訳) 陸前国は仙台周辺の下部鮮新統竜の口層からは、ここで Arca tatunokutiensis と命名する、Arca 属のなかの非常に大きな種類がかなりたくさん産出する。 この種は大きいだけでなく、殻が非常に厚い。

 放射肋の数は27~30本;殻高は52.0~79.0mm;殻長は68.0~95.0mm;殻深は25.0~32.0mm;咬合線の長さは44.0~69.0mm;殻の厚みは6.0~10.0mm。殻頂は顕著で、中程度に膨らむ。放射肋は、肋間の幅と等しいかより幅広いかのどちらかで、3本の溝を備えているが、その溝は、背側では未発達である。しかるに、殻は不変的に重厚である。殻の大きさは、成体では、たいがいとても大きい。

 この種は、非常に厚い殻と強い放射肋をもち、大形になる点で、Arca trilineata Conrad var. calcarea Grant and Gale, 1931 を思い起こさせる。その種はカリフォルニアの Santa Clara valley およびサンディエゴ地域の中期鮮新世を特徴づける種といわれている。Grant and Gale( 1931)によれば、その大きなサイズと厚い殻は、おそらく、「特異な環境条件を反映するもの」であろうという。

 同じことが、仙台周辺の竜の口層に豊富に産する本種に対しても言えるかも知れない。

 本種は、20年程前に矢部長克教授により、本州東北地方の新生界を特徴づける種で、北米の A. trilineata にとてもよく似ていると最初に認識されていた。教授の好意により、教授の未公表の手記と測定結果をここに引用する。

 「殻は明らかに等殻;腹部後方にかけて延びて張り出していて、それは成長が進んだ標本で特に著しい;腹部は不等辺状に突き出ている;殻頂は顕著で、内側に彎曲し、左右が近接している。靱帯面は高く、ほぼ等辺状、平らかややくぼんでいる;横方向に筋がついていて、かつ、斜めの溝がみられる;溝の方は若干本数が少なくて、完全な成体で5つみられる。咬合線は殻の横長よりも短い;前部の肩の角は後方にやや引っ込んでいて、前縁部は、上側がほぼ垂直で下側が丸くなっているか、より普通には前縁部全体が丸くなっている;後部の肩は鈍角を成している。

 肋は27~30本で、肋間は幾分幅がせまい。前部の肋と、特に中央部の肋は、断面が方形を成していて、中央にくっきりと溝が刻まれ、成長の進んだ段階では、中央の溝の両側に対称的に配列した縦方向の付加的な溝を伴っている。後部の肋はより幅がせまく、低い。肋および肋間は多数の細い成長線と交差し、多少波打っている。咬板はせまく、上側の縁はまっすぐで、下側の縁は若干彎曲している;歯は多数。殻は重厚。

 寸法:(省略)

end



他の記載(1)
Nomura, 1938 :
 
Molluscan Fossils from the Tatunokuti Shell Bed Exposed at Goroku Cliff in the Western Border of Sendai
[ Science Reports of the Tohoku Imperial University, 2nd Series (Geology), Vol. 19, No. 2, p. 235-275 ]
 

野村七平,1938年:

 
仙台西縁部の郷六の崖に露出する竜の口層産軟体動物化石
[東北帝国大学理科報告 第二類(地質学)]
 
Anadara tatunokutiensis (Nomura and Hatai)
 

 
(和訳)この種は、仙台周辺に分布する竜の口層の中で、もっとも普通で特徴的な種のひとつである。北米産の A. trilineata と密接な系統関係にあり、A. trilineata calcarea Grant and Gale のように、ある特異な環境条件を指し示している。しかしながら、この本邦産の種は、タイプの trilineata と亜種の calcarea との 中間に位置するものと思われる。これら3つの種類は、以下の点においてお互いに区別される。

 1)A. tatunokutiensis の殻は、A. trilineata の殻よりも重厚であるが、A. calcarea よりは明らかに薄い。

 2)A. tatunokutiensis の殻頂は、A. trilineata や calcarea よりも大きく、より膨らんでいる。

 3)A. tatunokutiensis の背側の両端は、A. trilineata や calcarea よりもはっきりと角ばっている。つまり、A. tatunokutiensis の外形は長方形で、一方、A. trilineata や calcarea は卵形である。

 4)A. tatunokutiensis の靱帯面の溝は、等しい大きさの標本を比較した時に、その数が少ない。さらに、A. tatunokutiensis では、各溝は中心線から鋭角を成して分岐する。

end



他の記載(2)
Noda, 1966 :
 
The Cenozoic Arcidae of Japan

[ Science Reports of the Tohoku University, 2nd Series (Geology), Vol. 38, No. 1, p. 1-161 ]

 

野田浩司,1966年:

 
日本の新生代フネガイ科
[東北大学理科報告 第二類(地質学)]
 
Anadara (Anadara) tatunokutiensis (Nomura and Hatai), 1936
 

 

(和訳)本種は、1936年に Nomura and Hatai により、宮城県仙台市の竜の口層から採集された標本にもとづいて、原記載が成された。

 殻のサイズは成体では常にとても大きい。殻高は52.0~79.0 mmの範囲;殻長は68.0~95.0 mm;殻深は25.0~32.0 mm;咬合線の長さは44.0~69.0 mm;殻の厚さは6.0~10.0 mm。

 本種は竜の口層からはじめて記載され、大きなサイズと、重くて頑丈で厚い殻、そして、殻が前方と後方の両方に延びていることで特徴づけられる。表面には29~31本のやや強くて、低く、上が平らな放射肋があり、肋の背はすり減った感じの粒状を呈している。放射肋は二分( dichotomous )し、後部では二重二分( double dichotomous )した放射肋がみられる場合がある。縦方向の溝は明瞭である。殻頂部はやや膨らんでおり、殻頂は小さく、顕著で、高い。殻頂の傾き具合は I タイプに属する。靱帯面はやや広く、亜三角形を呈して I または II タイプに属し、Aタイプの溝模様と Dタイプ[?]の溝形を成す。筋痕は前後両方に印されており、大きく、円みを帯びた方形で、Bタイプに属する。復縁の内側のへりは波打っている。歯は IVタイプの配列を示し、大きく、長く、中央部では咬合線に垂直で、しだいに腹側へ開いた格好を呈する。両端部では、V字形の歯ないし不規則形の歯が発達し、これらの歯には縦方向の条線がみられる。カーディナル・エリアの傾き具合は Cタイプに属する。

 本種は、二分する放射肋を持つ点で、A. watanabei に似ているが、 大きな殻、頑丈で幅広い放射肋、よりくっきりした二分放射肋、広い靱帯面、咬合線に沿った強い歯を持つことで区別される。北海道のシビウタン層から産する Anad. uozumii は、頑丈で厚い殻を持つ点で、本種と似ているが、本種は、よりくっきりした二分放射肋を持ち、後部半分では時に二重二分するので、後部で二分がはっきりしない A. uozumii とは異なっている。靱帯面が広い点は似ている。この種は、北米の A. trillineata に似ているが、広くてやや高い靱帯面と、靱帯面の幅広のV字形をした溝、くっきりとした二分放射肋を持つ点で区別される。

end