ミニ展示 「三葉虫の謎 Q&A」

第1回 三葉虫の謎 Q&A   2000.12~2001.5

2000年12月~2001年5月にかけて、「三葉虫の謎Q&A」と題して、大学博物館の常設展示に使用予定の約80点の三葉虫化石標本を展示しました。展示期間中は、三葉虫に関する質問を募集し、たくさんの質問にお答えすることで、展示の内容を充実させてゆきました。

三葉虫は何色だったの?
化石に本来の色は残っていないので分かりませんが、模様が残っている場合はあります。
一般に、生き物の色素は風化に弱く、生きていた当時の色が化石に残されていた例はまれにしかありません。そのため絶滅した生き物の体の色を知ることは、ほとんどの場合には不可能です。三葉虫も、生きていた当時の色は、化石には残されていないと思われます。
三葉虫の化石を見ますと、茶色、灰色、黒など、さまざまな色がついているのが分かります。これらは、三葉虫が生きていた当時の色ではなくて、鉄分やマンガンなどが付着して変色したか、殻が他の物質に置きかわってできたものです。さらには、標本を見やすくするために、化石に色をぬることも頻繁にあります。そのため、三葉虫が本来どのような色だったのかは、誰にも分かりません。
ただし、三葉虫の殻に模様が残っていたとする報告例は、わずかながら知られています(Harrington, 1959)。アメリカ合衆国のP. E. レイモンド博士は、1921年にアラバマ州にあるカンブリア紀中期(約5億2千万年前)の地層から、アノモカーレ・ビッタータ(Anomocare vittata)という三葉虫の尾部の化石を発見しました。彼は、その大きさ1cmほどの小さな化石に、図のような灰色の縞模様が見られることに気がつきました(Raymond, 1922)。おそらく殻の色は変わっていて本来の色とは違うと思われますが、この模様は生きていた当時のものと考えられています。
三葉虫 "Trilobitae"という名前は、1771年にJohann Walchというドイツ人自然科学者がつけたとされています。
三葉虫の縞模様
図.縞模様の見られるアノモカーレ・ビッタータ(Anomocare vittata)の尾部.アメリカ合衆国アラバマ州のカンブリア紀中期の地層から産出した.Raymond (1922)
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三葉虫をはじめて発見したのはだれ?
もっとも古い記録は、今から300年以上前、イギリスの博物館の人が書いた本です。
三葉虫化石は形がおもしろいために、ヨーロッパでは中世のころからブローチなどの装飾品として使われていたようです。しかし、化石が大昔の生き物の痕跡であると考えられるようになったのは、今から数百年くらい前からです。
三葉虫に関するもっとも古い記述は、1698年にイギリスのアシュモレアン博物館につとめるEdward Lhwydという人が出版した本の中にあります。彼は、三葉虫のことを "Trinuclei"(3つの軸という意味)と名付けました。
1745年には、スウェーデンの博物学者であるリンネ(Carl von Linne)が、いくつかの三葉虫の種に学名をつけました。それらの種小名は、いまでも使われています。
三葉虫 "Trilobitae"という名前は、1771年にJohann Walchというドイツ人自然科学者がつけたとされています。
三葉虫はなぜふしぎな形をしているの?
たぶん、大昔の海底を這って生活するのには、都合のよい形だったのだと思います。
三葉虫の形はさまざまで、見ていてとてもおもしろいですね。なぜ、このような形になったのでしょうか? それは、三葉虫に聞いても分からないくらい、とても難しい問題です。
私たちは、生き物の形を調べる時に、そのはたらきを考えます。たとえば、鳥のつばさは空を飛ぶのに適した形をしています。しかし、生き物の形はすべてが都合よくできているのではなく、たくさんの制約(自由にならない部分)をもっています。
そのひとつは、進化の過程で背負った宿命のようなもの(系統的制約)です。鳥のつばさは、脊椎動物に共通の前脚が変形したものです。それに対して、「天使のつばさ」は前脚とは別に背中から新しく生える器官です。そのため天使は、よほどのことがないかぎり地球上には生まれてこないのです。
それでは、三葉虫の形はどうでしょうか。
これまでの研究により、三葉虫は一般に海底を這って生活していたものと考えられます。そのため、三葉虫の体は、海底を這うのに都合のよい形をしていると想像できます。
しかし、三葉虫も人の子というか、御先祖様から受け継いだ形をもとに進化してきた生き物です。ですから、先祖の形から大きく外れて変化することはできません。
つまり、三葉虫の形というのは、先祖のもっていた形や、生理、構造上の理由などにより、もともと決められている基本形の上に、周囲の環境や生活様式に応じて微妙なアレンジが加わってできたものだと言えます。
現在の陸上に生活する私たちから見ると、三葉虫の体というのは見なれない不思議な形に見えるかも知れません。しかし、5億年以上も昔の海底では、当時の流行の最先端をゆく、結構イケてる姿だったのではないでしょうか。
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三葉虫は何味?
もちろん分かりませんが、他の節足動物(エビ、カニ、フジツボ、カメノテなど)の味に近かったのではないかと思います。
質問を見て、思わず笑ってしまいました。そんなこと分かるはずがないでしょう!
でも、他の方からの質問でも「三葉虫に毒はなかったの?」というのがありましたから、結構たくさんの方が抱く疑問なのかも知れませんね。
さて、三葉虫のレシピについてですが、まず殻が非常に固いので、これは食べられなかったと思います。三葉虫の殻は、炭酸カルシウム(カルサイト)からできていると考えられています。そのためカニやエビなどの殻(キチン質というムコ多糖の一種)よりも、さらに固かったはずです。ですから、殻は食べられません。これは、まず剥いて捨てましょう。
それでは、中身はどうでしょか? 三葉虫にも体を動かすための筋肉はあったでしょうから、味はどうあれ、これは食べることはできたはずです。カルサイトの殻を割るのは大変ですが、包丁で叩き割って殻の中から身を取り出しましょう。
果たして、毒はあったでしょうか? 三葉虫は非常に固い殻で身を守っています。一般に考えれば、これは三葉虫に強力な捕食者が存在したことを意味しています。他の生き物が食べられるのですから、人間様が食べられないことはないでしょう。
それでは、三葉虫の殻から剥き出した身を湯がいて塩をふってみましょう。どんな匂いがするでしょうか? ここから先は想像でしかありませんが、節足動物に属する仲間の中で私たちが食べているのは、エビ、カニ、フジツボ、カメノテなどです。これらの名前を聞いただけで、匂いのイメージは伝わってくるような気がしませんか?何か磯の香りが漂ってきましたね。
そして、いよいよ試食です。身の歯ごたえはどうでしょうか?かつてシーラカンスを試食した研究者は、「歯ブラシを噛むようだった」と言っていましたが、三葉虫はどうでしょうね。味は、これもやっぱり、エビ、カニ、フジツボ、カメノテを想像するしかありませんね。これらに特有のエキス(酵素起源か?)のようなものがあるのかも知れません。どうもご馳走様でした。
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三葉虫化石はどうしたら見つかるの?
日本で見つけるには、岩手県大船渡市などの三葉虫化石産地に行き、脱皮してバラバラになった三葉虫の殻をイメージして探すと良いでしょう。
三葉虫は、カンブリア紀とオルドビス紀の地層から多く見つかります。しかし、こんなに古い時代の地層は日本ではほとんどありません。この時代の三葉虫化石はすべて外国産です。
自然史標本館1階の展示の中から、三葉虫の化石を探してみてください。「石炭紀」と「ペルム紀」のケースの中に、日本の三葉虫化石がありますが、その産地は岩手県大船渡市など数地点に限られます。まずは、この産地の場所を正確に調べる必要があります。
さらに、展示してある日本産の三葉虫化石を見ると分かりますが、外国産の化石に比べると、保存状態はあまり良くなく、殻がバラバラで見つかることが多いです。これは、三葉虫が脱皮した後の殻と考えられます。
そのため、日本の化石産地で三葉虫を探す時には、三葉虫の完全な形をイメージするのでなく、このようなバラバラになった殻を頭に思い描きながら化石を探すと見つかる可能性が高くなります。
これは、化石を探す時に一般的に言えることですが、実際に目の前に化石があっても、それに気がつかないことが非常に多いです。それは、頭の中で化石の形に関するイメージがないために、目の前に化石があっても、それが「見えない」のです。
化石を探しに行く時は、その前に図鑑や博物館などで欲しい化石を良く観察して、どんな形で化石が見つかるのかを何度も頭に思い描いて、イメージ・トレーニングをしてから行くと良いでしょう。
三葉虫はどんなうんちをしたの?
うんちの化石は見つかるのですが、どれが三葉虫のうんちなのかは分かりません。
なかなか鋭い質問ですね。実は、うんちの化石は、まれに見つかることがあります。ただ、うんちだけが見つかると、それが誰のうんちなのかは、なかなか分かりません。だから、三葉虫がうんちをしている瞬間に死亡して、化石にならない限り、はっきりとしたことは分かりません。
でも、体の大きさや消化管の形、食べているものなどを調べれば、だいたいの想像はできます。三葉虫では、消化管の残っている化石が見つかっています(Chatterton et al., 1994)。それによると、三葉虫では胃が頭部の中軸部分にあって、そこで消化したものが、胸部中軸にある消化管に運ばれます。また、三葉虫は一般に堆積物を食べて栄養を吸収しています。
そのため、三葉虫のうんちは、砂や泥の詰まった細長いうんちだったと思われます。
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