東北大学総合学術博物館 ミニ標本案内 vol.2 マンチュリオフィクス

U? Y? 7億年前の古代文字発見? ――― 「マンチュリオフィクス」(Manchuriophycus sawadai)

先カンブリア時代(原生代初期、約7億年前)
中国、遼東半島産

7億年前の古代文字?
人類が出現する何億年も前に、すでに文字があった?それとも宇宙からのメッセージ?先カンブリア時代の地層の中には、化石かどうかも分からないような、正体不明の模様がたくさん見られます。
上の写真を見てください。まるで文字のような模様が、規則正しく並んでいます。この他にも、網目模様や、ミミズが這った跡のような曲線など、様々な模様が先カンブリア時代の地層から発見されています。発見された当時は、これらの標本は藻類の痕跡の化石(生痕化石)であろうと考えられ、「マンチュリオフィクス」という学名が付けられました。でも、それは本当でしょうか?
太古の海底の様子を示すポートレート?
最近の研究により、マンチュリオフィクスの多くは、ウェーブ・リップル(漣痕)の上に生じたマッド・クラック(乾裂)ではないかと考えられています(Seilacher,1997)。ウェーブ・リップルとは、水流によって海底の砂にできた模様です。多くのウェーブ・リップルは、層状にうねうねと美しい曲線を描いています。一方、マッド・クラックとは泥にできる亀裂です。水溜りが干上がると、亀の甲羅のような亀裂(マッド・クラック)ができますよね。そのマッド・クラックの中に入り込んだ砂などの堆積物が圧密を受けて変形することで、不思議な形をした模様が残される場合があるそうです。
古代文字の正体は?
それでは、「文字」のようにも見えるこの標本が、いったいどのようにしてできたのか想像してみましょう。たとえば、2方向からの波が交差すると、海底の砂の上に格子状の模様(ウェーブ・リップル)ができます。このような海底の格子模様の上に泥が堆積し、それが干上がって乾燥してひび割れることで、このような古代文字に見える模様ができたのかもしれません。
もうちょっと想像しやすくするために、目の前にワッフルを用意します。ワッフルは格子状にデコボコしていますよね。これを、2方向からの波が交差したウェーブ・リップルと考えます。つぎに、ワッフルの上にクリームを塗ります。クリームは、ウェーブ・リップルの上に堆積した泥です。クリームが乾くと、ワッフルの格子にマス目上にさえぎられたひび割れができます。その規則正しく並んだひび割れが、古代文字の正体・・・と考えることはできないでしょうか?
これはひとつの「想像」です。次は、ぜひ皆さんが「想像」してみてください。古代の不思議を解き明かすのは皆さんかもしれません。
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生痕化石と偽化石
マンチュリオフィクスのように、「生物がつくったものか、自然にできたものか分からないような構造」のことを、プロブレマティカ(problematica)と呼んでいます。たとえば、ミミズのようなものがはった跡が化石になったもの(生痕化石)なのか、それとも、堆積物が収縮して、しわがよった跡(偽化石)なのか、今でもその正体が分からないということです。この標本も、正体が確定されていないのですから、今はまだ「マンチュリオフィクス」という学名を与えられたプロブレマティカ(未だよくわかっていないもの)です。しかし、すべてのマンチュリオフィクスがマッド・クラックとウェーブ・リップルによるものだと確定されたら、これらの標本は「偽化石」とされ、マンチュリオフィクスという学名は無効になります。
海底をおおうマット
それにしても、そんな何億年も昔の海底の模様が、よく残っているものだと思いませんか?先カンブリア時代の海に生息していた生物は、骨や貝殻などの硬組織をもたず、みんなフニャフニャの体をしていたと考えられています。ですから、現在のように海の生物によって海底の砂や泥をかき乱されることがなかったのです。その結果、当時の海底には細菌などによってバイオマットが形成され、海底をやわらかくつつみこみました(Seilacher,1997)。このバイオマットの膜が海底をおおってくれたおかげで、私たちは太古の水の流れを、目で見て感じとることができるのです。

展示室内の標本の位置

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地球に酸素をもたらした生き物の記録「ストロマトライト」
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弱肉強食時代のはじまり「三葉虫」
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