世界最古のベレムナイト化石発見:
従来の進化・拡散過程を一新させる世界的成果

世界最古のベレムナイト化石発見:
従来の進化・拡散過程を一新させる世界的成果

世界最古のベレムナイト化石発見:
従来の進化・拡散過程を一新させる世界的成果

概要

 広島大学総合科学部児子(にこ)修司(しゅうじ)博士と東北大学総合学術博物館永広(えひろ)昌之(まさゆき)協力研究員(東北大学名誉教授)の研究チームは,宮城県南三陸町歌津地域の下部三畳系大沢層から,世界最古のベレムナイト化石Tohokubelus takaizumii(新属・新種)を記載・報告しました.
 ベレムナイト類(頭足綱 鞘形亜綱 ベレムナイト目)は,中生代を代表する海生動物化石のひとつで,従来その出現は後期三畳紀の初期と考えられていました.今回の発見はそれを1千万年余さかのぼらせるもので,ベレムナイトの発生や拡散過程を考える上で大変重要な成果です.

ベレムナイト トウホクベルス
Tohokubelus takaizumiiの写真

研究成果とその意義

 南部北上帯に属する,宮城県歌津地域に分布する下部三畳系大沢層の泥岩から産したベレムナイト類化石Tohokubelus takaizumii Niko and Ehiro(新種)を記載し,これにもとづき,シノベレムナイト科の新属Tohokubelusを提唱しました.
 新属名Tohokubelusは,東北地方,地質学的には東北日本,の「東北」に由来します.また,種小名のtakaizumiiは新属新種のホロタイプ標本の採集者である高泉幸浩氏に献名したものです.
 新属Tohokubelus は,鞘(rostrum)の背面にタテ方向の1本の溝があることで特徴付けられ,Sinobelemnitidae科に含まれると考えられます.Sinobelemnitidae科には.これまで2つの属,Sinobelemnites Zhu and Bian, 1984(南中国の上部三畳系および南三陸の最下部ジュラ系から産する)と Sichuanobelus Zhu and Bian, 1984(南中国の上部三畳系産)が知られていました.これらのうち,新属Tohokubelus は,Sichuanobelus に類似しますが,Sichuanobelus 属は円錐形でやや扁平な横断面をしめすこと,および背面の溝がTohokubelusに比べて浅いことで異なります.また,Sinobelemnites 属は表面に条線をもつ点で明瞭に区別されます.

ベレムナイトの発生と拡散

 大沢層は,世界最古の魚竜化石のひとつであるウタツサウルス(Utatsusaurus hataii)を産することで知られていますが,同層は共産するアンモノイド化石から,前期三畳紀オレネキアン期後期(およそ2億5千万年前~2億4千700万年前)の地層であることがわかっています.ベレムナイト類(ベレムナイト目)は中生代を代表する頭足類の仲間で,その最初の出現は従来後期三畳紀初期のカーニアン期(およそ2億3千700万年前~2億2千700万年前)とされていました.したがって,大沢層からのベレムナイトの発見は,その生存期間の下限を1千万年以上さかのぼらせるもので,ベレムナイト類の発生や拡散過程を考える上で重要です.

頭足類の分類と生存期間
ベレムナイトの発生はこれまで後期三畳紀であったが,今回の発見で前期三畳紀まで遡った(赤色部分)

 中国の後期三畳紀のベレムナイトや歌津地域の初期ジュラ紀の大型のベレムナイトなどの産出記録をあわせて考えると,ベレムナイト目は,前期三畳紀に,当時の大洋パンサラッサ海最西端の低緯度地域に最初に出現し,次いでその生息範囲を,パンサラッサ海から西方に向かう赤道海流によって,テチス海域へと広げ,ヨーロッパに到達したと考えられます.

ヨーロッパの研究者たちは,ベレムナイトは初期ジュラ紀にヨーロッパ地域にあらわれ,その後世界の海に広がって行ったと考え,中国産後期三畳紀ベレムナイトは疑問視されたり,半ば無視されたりしてきました.北海道大学の伊庭靖弘博士らの研究グループは,南三陸の初期ジュラ紀の地層から多様なベレムナイト化石を報告するとともに,中国の後期三畳紀ベレムナイトを再検討し,ベレムナイトの発生が三畳紀にさかのぼること,ベレムナイトの起源が東アジアに求められる可能性が大きいと主張しました(Iba et al., 2012).今回の南三陸の下部三畳系からのベレムナイトの発見は,ベレムナイトの発生が前期三畳紀までさかのぼることを明らかにするとともに,ベレムナイトの起源が東アジアにあった可能性をますます確実にしました.

三畳紀の大陸配置と三畳紀-初期ジュラ紀ベレムナイトの産出地域
三畳紀の大陸配置と三畳紀-初期ジュラ紀ベレムナイトの産出地域

三畳紀研究における大沢層の重要性

大沢層からは,魚竜やアンモノイドのほか,日本で唯一の嚢頭類化石や日本最古のエビ化石などの産出も知られていて,わが国の三畳紀の古生物研究において極めて重要な地層で,今後も新たな発見が期待されています.

この研究成果の詳しい内容については,2022年4月1日刊行のPaleontological Research誌のVol. 26, no. 2をご参照ください. Niko, S. and Ehiro, M., 2022, Tohokubelus n. gen., the oldest belemnite from the Olenekian (Lower Triassic) of Northeast Japan. Paleontological Research, vol. 26, no. 2.

2022年4月1日